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AROMA SOMMELIER

かつて砂漠を旅したキャラバンたちが運んでいた、黄金の香り――それがフランキンセンスです。和名では「乳香(にゅうこう)」と呼ばれ、カンラン科ボスウェリア属の樹木から出る乳白色の樹脂を乾燥させて作られます。その香りは清らかで神聖で、古くから人々の心を魅了してきました。名前の語源は、中世のフランス語で「純粋な香り」を意味する「franc encens」に由来しており、その名のとおり、神聖な香りとして古代から大切にされてきました。
紀元前3000年頃の古代エジプトでは、ミイラ作りや神殿での儀式に欠かせない存在でした。また、聖書の中ではイエス・キリストの誕生に際し、東方の三賢者が黄金・没薬とともにこの香りを捧げたと記されています。長い歴史の中で、フランキンセンスは神に捧げる特別な香りとして象徴されています。
フランキンセンスは、古代アラビアで黄金よりも高く評価され、香りの文化を支える大切な交易品として広く用いられてきました。乾いた土地に育つ木から得られるこの樹脂は、インドや中国の伝統医学でも、心を落ち着ける作用を持つ薬用樹脂として重宝されてきた歴史があります。宗教や医学、そして暮らしの中で、人々に寄り添ってきた、まさに祈りと癒しの象徴といえる香りです。

科名:カンラン科
学名:Boswellia serrata
抽出部位:樹脂
抽出方法:水蒸気蒸留法
主要産地:インド
主な芳香成分:α-ツジェン、α-ピネン、サビネンなど
香りのタイプ:バルサム
香りの揮発性:ミドル~ラストノート
香りの印象:弱~中
フランキンセンスの香りは、深く清らかなウッディー調に、ほんのりと柑橘やスパイスのニュアンスが溶け込んだ、穏やかで気品あるバルサム系の香りです。心を鎮め呼吸を深く整えるような落ち着きをもたらすため、精神を静かに整える香りとして、古来より瞑想や祈りの場で用いられてきました。第一印象は透明感がありながらも、時間の経過とともに樹脂特有の甘さとやわらかな温もりが香り、まるで静寂の中に灯る小さな炎のように、やさしく心を包み込みます。奥にしっかりとした芯を感じさせるこの香りは、精神を安定させ、内面と向き合う静かなひとときに寄り添ってくれるでしょう。
心に深く、身体にやさしく染みわたる
フランキンセンスには、α-ピネンなど、心と体にやさしく働きかける成分が豊富に含まれています。気持ちを落ち着け、不安や緊張をやわらげる作用があり、呼吸をゆっくり深く整えてくれるため、瞑想やヨガ、就寝前のリラックスタイムに最適です。まるで心のざわつきを鎮め、静けさを取り戻す香りです。
一方、抗炎症作用により、咳や気管支の違和感、喉の乾燥などを和らげるとされており、風邪予防や季節の変わり目にも役立ちます。また、肌の修復や細胞の再生を助けるとも言われており、乾燥やハリ不足が気になる肌のケアにも適したアロマです。スキンケアに香りを取り入れることで、肌だけでなく心までやさしく整えてくれます。

静けさと深みのあるフランキンセンスの香りは、心を整え、自分自身と向き合う時間にそっと寄り添います。日常の空間を上質に演出し、秋冬の静寂にも美しく調和する香りです。
静けさと集中を生む空間演出
フランキンセンスの香りは、空間に静寂と深みをもたらし、思考をクリアに整える力を持っています。書斎や読書スペース、ヨガや瞑想の時間を過ごす部屋など、集中力や内面との対話を求める場所にぴったりです。香りをディフューザーでゆっくりと広げることで、周囲の雑音や喧騒が遠のき、心がすっと整っていく感覚に包まれます。
また、美術館やギャラリー、ホテルのラウンジなど、静けさを大切にしたい空間にもおすすめです。来訪者の心を穏やかにし、空間に奥行きと神秘性をもたらしてくれます。まるで自分だけの時間が静かに守られているような、深い安らぎを感じさせる香りです。
セルフケアと夜のリチュアルに
ゆったりとしたバスタイムや、寝る前のスキンケアなど、1日の終わりに心と体をやさしく整える香りとして、フランキンセンスは最適です。お風呂上がり、枕元に置いたアロマストーンからほのかに香らせると、日中の疲れや緊張がふっとほどけ、深いリラックスへと導いてくれます。
自然と呼吸が穏やかになり、心が静かに整っていくのを感じる――そんな夜のリチュアル(癒しの習慣)にぴったりの香りです。アロマミストやディフューザーなど、自分に合ったスタイルで取り入れてみてください。感情をクールダウンさせたいときや、内面と向き合いたい静かなひとときに、そっと寄り添ってくれます。
秋から冬、心が内に向かう季節に
フランキンセンスは、季節の移ろいを静かに感じたい秋から冬に特にふさわしい香りです。
外の空気がひんやりと澄みわたり、街が静かに息をひそめ始める季節。感情が自然と内側に向かい、自分自身と向き合う時間が増える時期だからこそ、フランキンセンスの持つ深みと穏やかさが心に寄り添います。
落ち葉が舞う午後、少し冷え込んだ空気に包まれながら過ごすティータイムや、キャンドルを灯した静かな冬の夜など、ゆったりとした時間に香らせれば、まるで心の奥に戻っていくような安心感が生まれるでしょう。
心の整理や気持ちの切り替えが必要なときにも、自然のリズムと調和するように穏やかに働きかけてくれます。
シトラス系:ベルガモット、レモン
フラワー系:ネロリ、ゼラニウム
ハーブ系:ラベンダー、クラリセージ、マジョラム
ウッド系:サンダルウッド、シダーウッド
フランキンセンスは、ウッディーでバルサミックな深みを持ちつつ、やわらかな柑橘系のニュアンスも感じられる香りのため、ブレンドの幅が広いのが特徴です。
シトラス系と合わせると、軽やかさや透明感が加わり、朝やリフレッシュしたいときに最適な香りに。フラワー系とブレンドすれば、優雅で包容力のある印象に仕上がります。ハーブ系と組み合わせると、穏やかな癒しや情緒の安定感が生まれ、ウッド系と重ねると瞑想的で奥行きのある香りになります。
フランキンセンス自体は、華やかさや香り立ちのよい香りではないため、量を入れるのではなく、他の精油とバランスよくブレンドすることで、フランキンセンスのもつ特徴が生かされ、香りに奥行きや立体感を生みだします。
穏やかで深みのある香りが、自分と向き合うひとときをやさしく包み込みます。
B19 フランキンセンスウッド
静けさの中に力強さを感じる、深みのあるウッディーな香りです。澄んだ樹脂の香りを持つフランキンセンスに、サンダルウッドのやわらかな落ち着きが重なり、気持ちを穏やかに整えてくれます。心がざわつくときや、自分と静かに向き合いたい時間にそっと寄り添い、深呼吸したくなるような香りです。
原料:フランキンセンス,ホーウッド,サンダルウッド
D04 グルーヴィーフォレスト
樹々のうるおいに満ちた空気感を描き出す、シックでストイックな香り。ファーニードルやサイプレスの清涼感あふれる森林の息吹に、フランキンセンスの静かな深みとプチグレンの青みが溶け合い、グレープフルーツのほのかな苦みが全体を引き締めます。森の中にひとりたたずむような、静けさと研ぎ澄まされた感覚を呼び覚ます香りです。
原料:ファーニードル,サイプレス,フランキンセンス,グレープフルーツ,プチグレン, etc.
GB03 オーストラリアブルーサイプレス
オーストラリアの大地と静かな森の息吹を感じさせる、深く清らかな香り。ブルーサイプレスを中心に、清涼感を持つティートリーやサイプレスが爽やかさを添え、サンダルウッドとフランキンセンスが静かな余韻を残します。心を落ち着け、集中したい時間や上質な空間づくりにおすすめです。
原料:ブルーサイプレス, サイプレス, サンダルウッド, フランキンセンス, ティートリー, etc.
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