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AROMA SOMMELIER
かつてインドからヨーロッパへと運ばれた高価な織物には、防虫と香りづけのためにパチュリの葉が添えられていました。その深く芳しい土のような香りは、まさに「インド産」の証として、香りの記憶を届けていました。
パチュリ(パチョリ)という名は、タミル語で「緑の葉」を意味する「パチャイ・イル(pachai ilai)」に由来しています。シソ科の多年草で、濃い緑色をした大きな葉をもち、茎はやや紫がかった色を帯びています。草丈は60~90cmほどに育ち、白から淡い紫色の小さな花を穂状につける姿はどこか控えめながらも存在感を放ちます。
19世紀のヨーロッパではエキゾチックな香りとして上流階級の間で愛好されました。特にビクトリア朝時代には、東洋趣味のブームと相まって、香水や香料として高い人気を得ました。また、現代においても、香水に多く使われており、香りのラストノートを支える重要な香料として重宝されています。
科名:シソ科
学名:Pogostemon cablin
抽出部位:葉
抽出方法:水蒸気蒸留法
主要産地:インドネシア、インド、フィリピン
主な芳香成分:パチュロール、α-ブラウンセン、α-グアイエン、セスキテルペン類、ブルネソールなど
香りのタイプ:スパイス
香りの揮発性:ラストノート
香りの印象:強
湿った土、苔むした森、静かな寺院の石畳――パチュリの香りは、そんなイメージを呼び起こします。深く落ち着いたアーシーさのなかに、かすかな甘さとスパイシーな苦みが織りなすミステリアスな香調は、時間とともに深まり、空間に静寂と奥行きを与えます。墨汁のような深く静かな香りが、パチュリの個性を象徴しています。
摘みたての葉にはほとんど香りがなく、収穫後に葉を乾燥させ、時間をかけて発酵・熟成させる過程で、あの独特の重厚で深い香りが生まれます。
揮発性は非常に低く、香りはラストノートとして長く持続し、香り全体の印象に深みと安定感を加えてくれます。
地に足をつける安定感
パチュリの香りは、心に静けさと重心を取り戻すような、深い安心感をもたらします。グラウンディング効果が高く、思考や感情の乱れを整えたいときに役立ちます。グラウンディングとは、地に足をつけたような安定感や、現実としっかりつながる感覚のこと。心が不安定なときや気持ちが散漫なときに、自分の中心を見つけ直すサポートをしてくれる香りです。瞑想やヨガの際に香りを使うと、自己の内側へと意識を向けさせてくれます。
また、鎮静・抗うつ作用に加え、ホルモンバランスやリンパの流れの調整や、皮膚再生を助ける働きもあり、スキンケアの香りとしても用いられています。
パチュリは、その落ち着いた深みのある香りから、空間演出においても特別な役割を果たします。
クラシックやオリエンタル、和のテイストを取り入れた内装やインテリアによく調和し、特に和風や東洋的な空間では、静かで落ち着いた、精神性の高い雰囲気を引き立ててくれます。また、上質さや気品のある雰囲気を大切にしたい空間にもおすすめです。パチュリの持つ深みのある香りが、空間全体に落ち着きと、気高さを加えてくれます。
静寂を宿す空間に
瞑想スペースや書斎、夜のリラックスタイムには特におすすめで、ひとりで過ごす静かな時間に深い安らぎを添えます。木の温もりを感じる家具や和紙の照明など、落ち着いた素材のインテリアに香らせることで、香りと空間が調和し、心までも静かに整えられていきます。
特にリラクゼーションスペースやサロンなどの空間では、香りが静かな信頼感を与え、訪れる人の心を解きほぐしてくれます。
自分を取り戻す日常に
忙しい日々で心が散漫になったときには、パチュリの香りが意識を「今」へと引き戻してくれます。自然派ディフューザーなどに香りを垂らして、自分の近くでゆったりと漂わせて。ひとりで過ごす時間や、感情を整えたい夜の読書、音楽鑑賞、日記をつける時間など、自分を見つめるルーティンにそっと寄り添います。
秋から冬に寄り添う
木の葉が色づき、空気が澄んでくる季節には、深みあるパチュリの香りがよく似合います。冷たい風が肌を通る秋の日、暖かな照明の下で過ごす夜の時間に、パチュリは空間に温もりと湿度を与え、感情に穏やかな余韻を残します。季節の変わり目で感情が揺らぎやすい時期にも、安心感をもたらしてくれる香りです。毛布やカーテンに移った香りが、ふとした瞬間にやさしく香り立ち、日常に静かなぬくもりを添えてくれます。
シトラス系:ベルガモット、オレンジ
フラワー系:ローズ、ネロリ、ゼラニウム
ウッド系:サンダルウッド、シダーウッド、ベチバー
パチュリの香りは非常に個性が強く、ブレンドの中でも「底」を支える存在として働きます。量を多くしすぎると、他の香りを覆い尽くしてしまうため、最初はごく少量から試すのがおすすめです。アロマオイル自体も粘度が高いため、スポイトやドロッパー詰まりにも注意が必要です。
シトラスやフローラル調の香り立ちのいい軽やかな香りと合わせると、香りに奥行きと安定感が生まれます。例えば、ベルガモットの爽やかさと合わせれば、心地よく落ち着いたシトラス調に。ローズやネロリと合わせると、深みのある甘さを帯びた官能的な香りになります。
サンダルウッドやシダーウッド、ベチバーとパチュリは、いずれも深みのあるウッド系の香りで相性がよく、落ち着きと温かみを引き立て合います。重厚感のあるブレンドに仕上がり、空間に安心感と静けさをもたらします。
D18 トラストネイビー
ヒノキやフランキンセンスの静謐さにパチュリが加わることで、重厚さと品格が調和し、信頼できる誠実な雰囲気を漂わせるブレンド。
ウッディノートのなかに、安心感や落ち着きを感じる香調は、心の揺らぎを静かに整えてくれます。相手からの信頼を得たいビジネスのシーンや、自分だけの静けさに包まれたいときにもおすすめです。
原料:ヒノキ, フランキンセンス, パチュリ, ジュニパー, ブルーサイプレス, etc.
City series 渋谷(SHIBUYA)
進化を続ける都市「渋谷」をイメージした、静と動を併せ持つディープで洗練された香り。レモングラスの明るさとゼラニウムのフローラルに、パチュリの苦みと奥行きが加わり、現代的で都会的な落ち着きを演出します。
ひと息つきたい午後や、都会の中で自分のリズムを取り戻したいときにそっと寄り添う香りです。
原料:レモングラス, ブッダウッド, パチュリ, ゼラニウム, コリアンダー, etc.
ミスティーチャコール
ローズマリーやプチグレンの清涼感に、パチュリの重厚な墨のようなニュアンスが重なり、まるで霧の中にひそやかに広がる森の気配を感じさせます。
自然と調和した静けさが、深いリラクゼーションへと誘います。日常から少し離れて、自分の内側と静かに向き合いたい夜に、深く呼吸を整えてくれる香りです。
原料:ローズマリー, カブリューバ, ティートリー, プチグレン、パチュリ, etc.
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